夜も更けて皆が寝静まったころ、こちらへ向かってくる蹄の音がした。
道を行く誰もが振り返るほどの美貌の持ち主ジュリエットロワ(笑)は、とかく自分のことには無関心だったが、他人のことには人一倍気をかける心優しい娘(?)だった。
今も、自分の家のことなど顧みずに毎夜のようにトロワに会いに来る青年、カトロミオ(笑)の身を案じて寝つけずにいたのだ。
(あいつは危険を冒してまで俺に会いに来る。
…自分の気持ちなど語らない俺に飽きもせずに…。
俺は、あいつの想いに答えるべき、なのだろうな……。)
蹄の音がだんだんと近く、ゆっくりになり、バルコニーの下で止まった。
いつものパターンだ。
トロワは反射的にベットを降り、バルコニーへ出た。
身を乗り出し、下を見るとそこには、月明かりを受けていつも以上に綺麗な輝きを放つプラチナブロンドがあった。
このトロワがバルコニーへ出てくる間をはかったかのように、下にいるカトルが上を見上げ、軽く手を挙げた。
いつもは自分も軽く手を振って答えるのだが、さっきの考えのせいかそれもできない。
まっすぐなカトルの気持ちを知りながら何も言ってやれない自分…。
カトルの瞳を見るのが少し怖かった。
トロワはバルコニーに背を向け、小さなため息をついた。
(…何をしているんだ、俺は。)
自分でも理解不能なその行動に自己嫌悪に陥る。
そんなことをしているうち、カトルはあっという間に3階にあるトロワの部屋のバルコニーまで来てしまっていた。
それもそのはず、カトルはここまで梯子を使って来ているのだ。
この暗闇の中では目を凝らして見ないと気付かないのだが、カトルの愛馬の周りには同じコスチュームに身を包んだ男達が40人ほどいる。
彼らはいつも、バルコニーへ上がるカトルのために、どこからともなく特製の長梯子を持ち出してくるのだ。
どこにそんな梯子を置いてあるのか、彼らはどうやって来たのか…。
カトルが来るとき、いつも一頭の蹄の音しかしないのがトロワは不思議だった。
「トロワ?」
カトルはいつもと(微妙に)態度の違うトロワに、心配そうに声をかけた。
振り返ったトロワは、少し思い詰めたような顔をしている。
「…カトル、俺は―――」
今夜のトロワには決心があるのだ。
今夜こそは、そう思っていた。
……なのに自分の気持ちを言葉で表現することになれていないトロワは、言葉に詰まってしまった。
なんとか言葉をつなごうとしたその時、カトルの手がトロワの口を覆った。
この夜遅く寒い中、馬を走らせやって来たカトルの手は、とても冷たかった。
カトルは軽く頭を横に振って優しく囁いた。
「…君の瞳は、その口よりも多くを語ってくれるよ。
何も言わなくていいんだ、トロワ。
君の瞳を見ればすべてわかるのだから…。僕たちに、『言葉』は必要ないだろう……?」
カトルはトロワの瞳にかかったマスタードブラウンの髪を掻き上げた。
言うことすべてを信じさせてしまう強い眼差しで、ダークグリーンの瞳を見つめる。
それでも何か言おうと口を開いたトロワの口を、今度は唇で塞ぐ。
端から見れば少し強引にもとれるそれを包んでしまう優しい眼差し。
少し潤んだダークグリーンの瞳を閉じ、トロワはカトルに身を任せた。
*** FIN. ***
■ 投稿者の方からのメッセージ ■
メールで宣言しておいてこんなものですいません。…私なりにがんばってみました。
カトルの方に重点おいてるっぽいですが、私はトロワFanです!!
なんかトロワが「恋する乙女」(笑)状態で……。女々しくしないようにと思っていたのにな。
ま、いいか。(笑)
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