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トロワ姫と愉快な仲間たち 《 投稿作品 vol.35 》 |
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作品名 : トロワ"シンデレラ"姫と王子様 |
王子様 : トレーズ | | 投稿者 : Y さん |
心の中で一つ息を吐きトロワは冷静にこれからやらなければいけないことを整理した。
「上手く回収できれば良いが―――。
万が一回収出来ない場合は破壊するまでだ。」
厄介な事になったものだな。トロワは心の中でつぶやいた。
侵入経路を頭の中でもう一度確認しトロワは行動を開始した。
話は昨日の任務に遡る。
任務の内容はあるパーティーへ潜入しとある人物間の裏のやり取りの証拠写真を撮るというトロワにしてみれば難なくこなせる内容であった。
そのパーティーが誰だかの花嫁を探すと言う目的のために開かれていたため、ドレス姿でいつもよりも動きにくい格好ではあったものの証拠写真は簡単に撮る事ができた。
周囲の人々の関心は中心で行われている華やかなダンスや料理、奏でられている音楽に向かっており、裏のやり取りにもそれを写真に収めたトロワの存在にも気付かない。
写真を撮り終えたトロワが、気配を消し顔を見られないよう視線を落としたまま撤収しようとしたその時
「一曲お相手いただけないだろうか?」
トロワの前に手が差し出された。
気配を消していた自分に話しかけられトロワは一瞬驚いたがすぐにハンカチで口元を覆い視線をさらに下に向けた。
相手から見たときに具合が悪く見えるように。
そしてトロワは頭を少し下げ外に向かう。
気分が優れないため無言の辞退と退席、相手がそう取る事を予測して。
「気分が優れないなら部屋を用意するので、そちらで少し休むと良い。」
男はそういうとトロワの体をそっと支え別室へ案内した。
「ローズティーを入れよう。
温かいものを飲めば少しは気分も優れるだろう。」
部屋のソファーにトロワを座らせた男はそう言い部屋の入り口に向かい、控えていたメイドにティーセットを用意するよう言う。
トロワは自分をここまで案内した男の顔をそっと伺った。
(トレーズ・クシュリナーダ)まさか彼だったとは、と驚きのあまり顔を隠す事も忘れ彼の顔をじっと見てしまう。
トレーズがトロワのほうを向くと自分の顔をじっと見つめるトロワと目が合った。
「その様子だと、今まで私が誰であるのか気付かなかったようだね。
一応今日のこのくだらないパーティーの主役なのだがね。」
自嘲気味に笑うトレーズからトロワは慌てて視線を下に向けるとそのまま固まった。
トレーズ・クシュリナーダ任務の前に写真で顔だけは確認していたが声までは確認していなかった事をトロワは後悔していた。
トレーズの声は少しでも確認していれば決して忘れる事は無かっただろう、不思議な心地よさを感じる声だとトロワは思った。
「君が会場に入ってから私は君の存在に気づいていた。
最初から私に興味は無かったのだろう?
さて、君にとっての今日のパーティーの主役が誰だったのか教えて貰いたい。」
トロワは出来るだけ冷静に今の状況を把握する。
身分も目的も明かす訳にはいかない、しかしこのまま何も言わずにトレーズを煙に巻く事は出来ないだろう。
トロワは次にここからの脱出を考えた。
入り口からの脱出は無理だろう、常にメイドと警備の者が控えている。それに入り口から出るにはトレーズの脇を抜けなくてはいけない、今彼に近づけばあの目に捕われてしまう、とトロワは感じていた。
残るは窓だ、ここは2階だから何とかなるだろう。
そこまで考えトロワは時計を確認する。
12時まであと30分。
万が一の事態に備え、12時にこの建物のブレーカーが落ちるように仲間が手を回してくれている。
そのタイミングでしか脱出出来ないだろうとトロワは開き直りトレーズの目を見る。言うつもりは無い
そう込めて見れば彼には伝わるだろう。トロワはそう思っていた。
トロワのそんな態度にトレーズは笑みをこぼす。
「ふっ、まぁ良い。
時間はまだあるのだし、ゆっくり聞かせてもらおう。
さてティーセットが用意できたようだ。」
ローズティーを入れトレーズはトロワの向かいに座る。
「君は興味ないかもしれないが」と前置きしトロワに軽く自分のことを話した。
声を出せば男だとばれてしまうため、それに対しトロワが何か言うことはなく、目で相槌を打ちながら聞いていた。
パーティーを抜け出すタイミングを伺っていたと言うことを明かされた時はすこし笑ってしまった。
その時トロワは声を出せない事を少し寂しく思った。
趣味で育てているバラの話が一段落した時トレーズの手がトロワのおとがいにすっとのび固定する。
トレーズの目がトロワの目をしっかり捕らえる。
「せめて名前くらい教えて貰えないかね?」
そこに詰問するような強さは無く、とても穏やかな言葉だった。
目を逸らす事も、顔をそむける事もできずトロワが困った表情を浮かべると12時を告げる鐘が鳴った。
一瞬にして明かりが落ち暗闇に包まれる。
トロワは慌てて窓に向かいガラスの靴を脱ぎそれを手に持つとそこから飛び降りた。
伸身三回宙返り一回捻りをこなし着地するとそのまま振り返らず撤収した。
「待ちたまえ!」そう彼が呼び止めるのがかすかに聞こえた。
振り返ったら進めない、トロワは何故かそう思い焦った。
その焦りが良くなかったのだろう。
仲間と合流しカメラを渡すまでガラスの靴を片方落としたことにトロワは気付かなかった。
珍しいトロワのミスに仲間は心配したが
「騒ぎが収まった頃を見計らい侵入し回収する」と告げトロワは仲間と別れた。
そして今朝の新聞を見たトロワは驚きを隠せなかった。
そこには「トレーズ・クシュリナーダ婚約。相手は不明」と言う見出しがあり、記事はこう続いていた。
「このガラスの靴の持ち主と婚約する。持ち主は屋敷へ来て欲しい。」
持ち主の身体的特徴は何も書かれていなかった。
目の色や髪の色、肌の色も知っているはずなのに明かさずに書いたと言う事がトロワには彼の心遣いに思えた。
自分が名乗り出る事はもちろん出来ないがこのまま放って置けば騒ぎはさらに大きくなるだろう。
トロワは何が彼にとって一番良いのか考えた。
色々考え、彼の知らぬ間にガラスの靴が無くなるのが一番良い気がした。
トロワは騒ぎを収めるなら早い方がよいだろう、と日時を今日の夜に決めた。
こうしてトロワはトレーズの屋敷に侵入し靴を回収する事になった。
建物内部へ侵入し仲間が調べてくれた、ガラスの靴が保管されている部屋の扉の前でトロワは立ち止まった。
部屋の中の気配をうかがう。人の気配がしなかったためトロワはそっと扉を開け部屋に侵入した。
明かりの付いていない室内を物音を立てないよう慎重に進む。
トロワが部屋の奥に着き窓からの明かりを頼りにガラスの靴を探し始めた時部屋に明かりが灯った。
「探し物は見つかったかね?」
部屋の入り口でトレーズが優雅に微笑んでいた。
「あぁ。」
トロワはトレーズが手に持っているガラスの靴に目をやり短く答えた。
その声にはトロワの警戒感がこもっていた。
「今宵は口を利いてくれるのだね。
君の声が聞ける事を嬉しく思う。とても美しい声だ。」
そんなトロワの警戒感に気付いてもトレーズの優雅な態度は変る事がなかった。
「残念ながらその靴の持ち主は男だ。
その靴の持ち主と婚約する事は不可能だ。
返してもらえれば靴の処分はこちらでする。
盗まれたとでも言えばこの騒ぎも収まるだろう。」
トロワからの提案を黙って聞いていたトレーズがゆったりと口を開く
「まず、君の名前を教えてもらえないだろうか?」
提案に対し何も触れてこないトレーズの言葉にトロワは警戒の色を強めた。
トロワは交渉の主導権を渡すことは避けたいと考えていた。
「こちらの提案をのむ気はない、そういうことか?」
「提案も何も、このガラスの靴は持ち主に返そうと思い新聞に持ち主に取りに来てもらえるよう記事を書いてもらったのだが。
どうやら記者が何か誤解をして書いてしまったようだ。」
記者が誤解をするような言い方をトレーズがわざとしたのかどうかまではトロワには判断できなかったが、昨日から今までのトレーズの態度を考え、トロワは主導権をとることをあきらめた。
目的は靴の回収なのだから、主導権に固執するべきではないとトロワは判断した。
「名前なんかない。どうしても呼びたければトロワだ。
トロワ・バートンとでも呼んでくれ。」
「ではトロワ、いつまでもそんなところにいないでそこの椅子にかけたまえ。
この部屋の窓は見た目は普通の窓だが嵌め殺しになっている、開けるのは不可能だ。
さらに言うと防弾ガラスで出来ているのでね、くれぐれも体当たりなどしないように、君の体が傷つく所など見たくは無いからね。」
トレーズにばれないように後ろの窓を探っていたトロワの手が止まる。
「まさか2階の窓から飛び降りるとは思っていなかったのでね。
今宵はトロワの安全のために窓の開かない部屋に招待させてもらったよ。」
あくまで優雅な態度を崩さないトレーズにトロワは「正しい判断だ。」と短く返した。
「トロワに褒めてもらえるとは、光栄だ。
さぁ、早く掛けたまえ。このガラスの靴が君の物と分かれば
すぐにでも返そう。」
トロワはトレーズの言葉におとなしく従った。
トロワの座る椅子の正面に椅子を置きトレーズはそこに座った。
そして椅子に掛けたトロワの片足をトレーズがすっと持ち上げた。
足を取られトロワが慌てた。
「目的は何だ。」
「目的?先ほどから言っている通りこのガラスの靴がトロワのものであることを確かめようと思ってね。
履かせて確かめるのが一番早い上に確実だ。
そう思わないかね?」
トレーズのペースに完全に飲まれているトロワはそうかもしれないと思い込みそのまま大人しく待つことにした。
しかし、自分の素足にガラスの靴を履かせようとしているトレーズの行為にだんだんと気恥ずかしさが沸いてきて顔を背けたままトロワは確認が終わるのを待った。
「もういいだろう。」
足に伝わる冷たい感触で自分の足にガラスの靴が履かせられたことに気付いていたトロワが片足が未だ開放されない事に焦れて言う。
「すまない、つい見とれてしまっていたようだ。
確かに、このガラスの靴はトロワの物で間違えないようだね。
約束通りガラスの靴はお返ししよう。」
無事目的のガラスの靴を回収出来たトロワは体から力が抜けていくのを感じた。回収できた安心感とは違う回収できてしまったと寂しく思うような妙な感覚。
その感覚を打ち消すようトロワは硬い口調で言う。
「ついでに足も離してもらえるか。」
トロワにそう言われ「すまない。」と小さく詫びを入れるとトレーズはすぐにトロワの片足を開放したが、その後優雅にトロワを抱き上げてしまった。
「ガラスの靴はトロワに返そう。
だがトロワをここから帰すつもりはないのだよ。」
トロワは言葉を失った。
抱き上げられたトロワの足からガラスの靴が滑り落ち床で砕けた。
その頃なかなか戻ってこないトロワを待っていた2人の仲間の間には重苦しい空気が満ちていた。
そんな空気を少しでも変えようと長い髪を三つ編みに束ねた少年が明るく冗談を言う。
「落としたのが靴だけに、足が付いた―――なぁんてな。」
空気はさらに重くなり笑えない冗談を言った少年に冷たい視線が注がれる。
そこへ中華風の服を着て髪を一つに束ねた少年が息を切らせてやってきた。
「トロワはどうした!」
「ガラスの靴の回収に行ってるぜ。」
「なんだと!それは罠だ!
貴様らは偽の情報を掴まされたんだ。」
中華風の服を着た少年がそう声を荒げると今まで黙っていた髪の短い少年が立ち上がり
「俺の…、俺のミスだー!」
と叫び自爆スイッチを取り出した。
自爆しようとする少年とそれを止めようとする2人の少年の攻防はプラチナブロンドの髪の少年が光臨するまで続いた。
*** END ***
■ 投稿者の方からのメッセージ ■
【 1+3=13 】拝読し高まった萌の勢いのまま書いてしまいました。本当に色々すみません。
シンデレラ要素がガラスの靴位しかない上に無駄に長い…
書きながら使い慣れないエレガントな言葉遣いに爆死してますがヘビーアームズのマイクロミサイルの一つになって飛んできます。
お目汚し失礼致しましたm(_ _)m
■ from 管理人 ■
拙作【 1+3=13 】を読んで書いて下さったそうで、ありがとうございます!
ガラスの靴を落としてきてしまった翌朝、トロワが発見して驚いた、あの新聞記事。トレーズ様は、わざと記者が誤解するような言い方をしたような気がしてなりません(笑)。自分の発言が、周囲にどんな影響を及ぼすかなど、トレーズ様は当然、分かっていらっしゃる筈。そんなトレーズ様が、自分の思い通りの記事を記者に書かせる事など、朝飯前なのでは?(^-^)
トロワの片足を持ち上げて、靴を履かせるトレーズ様。その、あまりにも“萌え”な状況にも、うっとりしてしまいました。“トロワが履く” のではなく “トレーズ様がトロワに履かせる” ところが、凄く重要だと思います。
更には、ガラスの靴は約束通り、トロワに返却。またトロワが望んだように、足も離してくれた。でも、トロワ自身は抱き上げ、攫ってしまうトレーズ様。確かにトレーズ様は「トロワを帰す」なんて約束など、していませんでしたものね。策士なトレーズ様が、とってもステキです!! しかも、二度目の対面場所となった部屋は、窓からも逃げられないようになっているという、徹底ぶり。絶対にトロワを逃がしたくないという、トレーズ様の本気がとてもよく伝わってきて、そこにも萌えました。
個人的にはトロワの任務を、ヒイロもデュオもカトルも五飛もサポートしてくれていたところにも、萌えを感じました。きっと、皆がトロワのサポート役をやりたがった結果なのでは?(笑) トロワ、皆に愛されているのですねvvv
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