特別な、ありきたり



『 牛乳に卵、それから…… 』

五飛は食料品売り場を歩きながら、次々に食材をショッピングカートの中へと放り込んでいった。その為、既にカートの中身はかなりの量となっていたのだが、それでも何か買い忘れているものはないかと、売り場を捜し歩いては中身を増やしてゆく。

それらは全て、ある人物の為の行動であった。

普段はサーカスにいるその人物が 「 突然、休暇が出来たから 」 と、ふらりと現れたのは、つい昨日のことである。五飛の方も別段、忙しい時期ではなかった為、今日は急ぎの仕事だけを片づけて、半ば強引に切り上げてきてしまった。そして、そのまま直行した場所というのが、このショッピングセンターである。

ここ数日間、忙しかった為に冷蔵庫がカラッポで慌てて買い足している……………というわけではない。

昨日、久しぶりに顔を合わせたトロワは、気のせいか以前に会った時よりも、ほんの少しだけ痩せたように五飛には見えたのだ。以前から、トロワの軽すぎる体重を心配していた五飛は、思わず眉をひそめてしまう。

トロワが、オペレーションメテオという過酷な任務を遂行できるだけの体力を持ち合わせているということは、十分に承知しているつもりではある。しかし、心配なものは心配なのだから仕方あるまい。

『 大体トロワは、自分の体を粗略に扱い過ぎる…… 』

青果コーナーでトマトを選びながらも、考えてしまうのは、そんなことばかりである。

『 昨日、抱きしめた時も…… 』

と、そこまで考えて五飛は、昨夜の出来事を鮮やかに脳裏に蘇えらせてしまい、一気に耳まで赤くなってしまった。

トマトを手にしたまま、そのトマトに負けず劣らず真っ赤な顔をして立ち尽くす五飛――。

そんな挙動不審な人物に視線が集まらないはずもなく、他人からの好奇の視線を感じた五飛は、咳払いを一つすると、何とか思考を切り替えた。

その後、他人に対しては気を遣い過ぎるようなところまであるというのに、自分のことについては割と無頓着なその人物の体重を、少しでも平均値に近付けられないものかと、食料品のストックを大量に増やす作業を再開したのであった。





久しぶりにたっぷりと睡眠を取り、心地よい覚醒へと向かう体。

まず気が付いたのは、自分では掛けた覚えの無い上掛け。そうして、ゆっくりと近付いてくる馴染んだ気配。

まだ目覚めきっていない頭で、ぼんやりとそちらの方を見上げると、その気配の主は、上から羽根のようなキスを降らせてくる。軽く触れただけで離れていったキスの相手に向かってトロワは、少しだけ驚いたように、こう口にした。

「 帰っていたのか…… 」

全然気が付かなかったと言うトロワに 「 それだけ疲れていたのだろう 」 と返しながら、その頬へと左手を伸ばす五飛。そんな五飛へ、上掛けを掛けてくれたことに対するお礼の言葉を述べると、五飛は微笑んで、こう告げた。

「 ちょうど食事の用意が整ったところだ。すぐ食べられるようなら、食事にしよう。
 それとも、体が完全に目覚めるまで、もう少し待ってからの方がいいか? 」

その質問にトロワは、自分の頬に伸ばされた五飛の左手に自分の右手を重ねながら、こう返す。

「 できることなら、今すぐにでも食事にしてもらえると有り難い。そうでなければ、空腹で気絶しそうだ 」

冗談のようにそう言うトロワに五飛は、更に微笑みを深いものにして右手を差し出す。その手につかまってトロワは、ソファーからゆっくりと立ち上がった。





その後、食事を取る為にダイニングルームへと移動したトロワが目にしたものは……………。





「 …………これ、全部二人で食べるつもりなのか……? 」

ダイニングルームのテーブルに並べられた、種類も量も尋常ではない料理の山を見て、思わずトロワは五飛へと確認の言葉を投げてしまう。自分でも、作り過ぎてしまったかと後悔し始めていた五飛は、言葉を詰まらせた。

そんな五飛を見て、口元に手を当てて笑いをこらえつつも
「 よくもまあ、これだけの料理を作ったものだな。相当、時間がかかったのではないか? 」
と、その労をねぎらうトロワ。

それに五飛は
「 それほどでも…… 」
と返したものの、語尾が小さくなってゆくのは、やはり隠せなかった。

「 当分の間、食事の仕度は楽が出来そうだな 」

そう微笑んだトロワを見て、五飛が 『 まあ、そういうことにしておいても…… 』 と考え始めた頃、さっきからトロワが、微笑んだまま自分の顔を見詰めていることに五飛は気が付いた。

問い掛けてみると、トロワの口から突然 「 ありがとう 」 という言葉が飛び出してくる。一瞬、何に対する礼なのか分かり兼ねて五飛が戸惑っていると、トロワは次に、こんな言葉を口にした。

「 確かに、ここのところ少し、忙しかったからな…… 」

疲れているらしいトロワを気遣って五飛が、こんなにたくさんの料理を作ったのだということにトロワは、とっくに気が付いていたらしい。先程の礼は、そんな五飛の気遣いに対してのものらしかった。

そう気が付いた五飛が、今度は軽くトロワを睨む。
「 もっと、自分の身体を大事にしろ 」

それに対して 「 善処しよう 」 と綺麗に微笑んだトロワの顔に、思わず見惚れてしまった五飛であった。


END



********** 後記 **********

……………こんな話だったのでゴザイマス、K様、A様。「 読みたい 」 と言われた事、後悔なさっていませんか〜〜〜?(笑) 攻めキャラがトロワに激甘なのも、この頃からだったのですね〜。やはり骨の髄までトロワFanってコトなのでしょうか?(^_^;)



この話を発掘した際、どうやら提出した後になって思いついたらしい、この話のプロローグ的な話も一緒に見つけてしまいました。この際ですので、それも一緒に公開してしまおうと思います。

この下にあります、ちょっとしたアンケートを送信していただければ表示されるようになっておりますので、宜しければこちらも読んでいってやってくださいませ。



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